7月1日、英国から中国へ返還されて年を記念する香港の式典で、
香港政府の幹部から就任宣誓を受ける中国の習近平国家主席(右端)と
李家超・新香港行政長官(右から2人目)=AP
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「一国二制度は素晴らしい制度で変える理由は何もない。長期にわたって堅持すべきだ」。1日の香港返還25年式典で中国の習近平国家主席はこう述べ、国家安全維持法(国安法)が施行された今でも、香港では「一国二制度」が維持されているとの考えを示した。この習氏の発言が台湾でさっそく波紋を広げている。
台湾の蘇貞昌・行政院長(首相に相当)は習氏の発言直後、記者団に「香港が返還された当時、『暮らしは50年間変わらない』と(中国は)市民に約束したのに、25年で自由も民主主義も消えてなくなった」と指摘。その上で「私たちは台湾の主権、自由、民主主義を守っていく。中国のいわゆる一国二制度は信用できない」と述べた。
一国二制度はそもそも、中国政府が1970年代末、台湾問題を平和的に解決するために提案した。「高度な自治」などを保証する内容で、97年に英国から返還された香港で初めてこの制度が導入された。しかし近年、中国は香港の内政への干渉を強めている。政府への批判を一切認めない国安法が施行されたほか、選挙制度も民主派が当選しにくいように変更された。
台湾在住の香港人を束ねる「台湾香港協会」の理事長で、人権派弁護士の桑普氏は、この日の香港での式典を「市民不在の茶番だ」と批判した。
桑氏によれば、知人に式典の開催を喜ぶ人は全くいない。当局は抗議デモを警戒し、式典会場に市民を一切入れなかった。会場周辺の広範囲で交通規制を敷いたために各地で大渋滞が起き、市民の不満はますます高まった。式典では習氏も李家超・新行政長官も「安定」「秩序」を繰り返し強調したため、「これから自由がますます少なくなるだろう」と危惧する市民も多いという。
台湾紙、聯合報などによると、2019年の大規模な反政府デモが弾圧された後、香港から欧米やシンガポール、台湾などに出た移民は企業家や知識人など10万人を超えた。今後、この流れはさらに加速する可能性があるという。
筆者:矢板明夫(産経新聞台北支局長)